親の願い
「健康で、心のやさしい子」に育って欲しい

(2004.5.7)

男女共同参画社会推進条例に関して、桃太郎の話に出てくる、「お爺さんは山に芝刈りに、お婆さんは川に洗濯に」は、性別による役割分担ではないのか、教育の世界でなんでも同じにしていいもいいのか?と言う訳の分らない質問を受けた。教育の世界で男女を同じにするのが面白くないらしい。お爺さんが川に洗濯に行っても、お婆さんが山に芝刈りに行っても、一向に構わない。ただ単に「お爺さんは山に、お婆さんは川に」の方が話が分り易いだけのことである。教育の世界に止まらず、男女の違いを認めつつ、男と女が互いに尊重し合い、助け合ってより良い社会を目指していかなければならないことは当然のことである。何でも同じではなく、違いは違いとして、今まで抑えられていた女性に、もっと活躍の場を認めていかなければ、これからの社会は発展しないだろう。

五月五日は端午の節句。子どもの日。桃太郎や、金太郎の人形が飾られている。桃太郎の「気は優しくて力持ち」こそ、男の子の理想像だからであろう。いつの時代も、親はみんな「心優しい健康な子」に育って欲しいと願っている。心優しい日本の男なら、女性に対しても、これからはお互いに助け合い、尊重しあって生きましょうと言うぐらいの度量が欲しいものである。

「気は優しくて力持ち」が男の子の理想像であるなら、「気立てが良くて働き者」と言ったところが女の子の理想像であろうか。しかし、根本的には、どちらも同じことを言っていると思う。親は、心が優しく力仕事を苦もなくこなしてしまうぐらい健康で生き生きしている人間に育って欲しいと願っている。保護者の皆様に、「どの様な子に育って欲しいですか、」と尋ねると、数十年の間、親の答えは同じであった。おそらくこの世に親子の関係が出来た時からずっと親の思いは変わらないのではないか。「心優しく、健康な子」というのが親の願いのほとんど全てである。これが親の本心であろう。

しかし、現代社会の現実が、親の願いを捻じ曲げてしまっている。早く教えないと置いて行かれてしまうとの脅迫めいた塾やドリルのチラシ、ダイレクトメールが送られてくると、親は浮き足立ってしまう。「心優しく健康に」などということはすっかり忘れ去られてしまう。人が人間に育っていくということはどういうことなのか、子どもを育てるとはどういうことなのか、問い直さなければならない時にきている。

学力が低下しているから、もっと子ども達を競争させて厳しく勉強させなければならない、と言う意見があるが、これ以上、子ども達を追い込んで、どうしようというのだろう。学ぶということは、自ら学ぶ意欲がないことには、まったく効果がない。人間として大切なことをしっかり育てることが、前提である。心身共に健康な子どもは、学習にも意欲的な子どもになる。駆り立て,追いたてられたところに、自主的な意欲は育たない。先ずは、心と体を逞しく育て、意欲や自主性を身につけることが先決である。

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・・その2・・

『 5月の子ども達の姿 』

                           

5月の連休が終わる頃になると、子ども達一人一人の地が出てきます。あちらこちらでトラブルが続発します。 他人との関係があるからこそ、幼稚園は子ども達が初めて出会う「小さな社会」なのです。人間は、他人との関係の中でしか、人格を育てられません。この小さな社会の中で、衝突し、葛藤し、社会性、自己抑制など、人間としての人格の基礎を身につけます。

最近は、少子化社会の中で、子ども同士で遊ぶ機会が少なくなりました。いつも、お母さんに見守られていて、衝突する時はほとんど止められてしまいます。又、お母さんと2人きりの時は、殆どの事が許されてしまいます。 初めて自分一人で他の子と遊ぶ時に、どの様に他の子に接してよいか分からず、急に友人を突き飛ばしたり、噛み付いたりする子もいます。他の子が使っているスコップを、いきなりひったくったりすることもあります。勿論、集団生活の中では、そんなことは許されません。 家ではいつも自分が一番であったのに、幼稚園では並んで順番を待たなければなりません。家では、やりたい放題であっても、幼稚園ではそれを許してくれない他人がいます。そこで衝突が起こります。家庭ではできない人との関わりがあることにこそ、幼稚園の存在意義があると言えます。

自分の思い通りにいかなくなり、幼稚園が窮屈になってきます。一人一人の子どもが、みんなそれぞれ壁にぶつかり、もがき、それを乗り越えようとしています。幼稚園に行きたくないと言い出したり、友達と衝突したりする事は、実は、みんな一歩前進なのです。成長の〝証し〟なのです。子ども達同士の自己主張のぶつかり合いの〝ケンカ〟は、他人にも主張があること、他人との関係、やって良い事と悪い事があること、人との折り合いの付け方を学ぶ貴重な機会です。そこから、他人の立場を思いやる事が出来る様になるのです。お母さんはうろたえず、どっしりと構え、じっくり見守り、みんな受け入れ、共感し、抱きしめ、愛情を充電し、心を安定させてあげて下さい。

しかし、一方的な暴力であったり、弱い子を攻撃することは、自己主張のぶつかり合いとしての“ケンカ”ではありませんので、決して許しません。その場で厳しく指導します。人に対し、やってはいけないこと(悪い事)を教えます。幼稚園は一人一人を優しく見守ると同時に、人間としてのルールを身につける場でもあるのです。

従って、小さなトラブルはいちいち双方のご家庭に報告しません。幼稚園で起こった子ども同士のことは、幼稚園の全面的責任ですが、一方的な暴力であったり、一方を傷つけてしまったりした時は、双方のご家庭に報告するように致します。

半年もすると、すっかり落ち着きます。今はアウトローの世界も、子ども達の法(ルール)が支配する「しっかりした小さな社会」になります。 ご心配をお掛けして申し訳ありませんが、子ども達の成長を楽しみに待って下さい。

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