「ファーブルでなく、ゴキブリ昆虫記」

(2023.7.01)

いよいよクワガタ・カブトの出番がやってきた。しかし、今年はおかしなことがあった。春まだ浅き4月中旬に、「クワガタを捕まえた」と、0君が走って来た。確かに、手にしていたのは小さいけれどクワガタだった。それにしても、早すぎる。これも自然環境の破壊・地球温暖化の現象か。

北竜台の園は森の中にあるので、虫の宝庫である。クワガタ・カブトは毎日沢山捕れる。大きなナナフシ、美しい玉虫、鬼やんま等、珍しい虫もいる。初夏から秋に、切り株の上で、自慢のクワガタ、カブト場所が始まる。都会から転園してきた子も、初めこそ怖がるが、周りの子が平気で、虫をつかんでいるのを見て、青虫やカタツムリを手にのせて眺めるようになる。

女の子は、小さな青虫やダンゴ虫が好きだ。初めは「気持ち悪い!」と言っていた子が、手の甲にダンゴ虫を乗せ、モソモソ動く様子に目を細めて、「かわいい!」なんて言い出す。そのうち牛乳パックを抱え、もったいぶって「見せてあげようか」と言う。中味は分かっているので見たくはないが、一応、覗いてあげる。ダンゴ虫が重なってウジャウジャ動いている。嬉しそうに「お家に持って帰るの」と・・・。牛乳パックの中を覗いたお母さんの顔が目に浮かぶ。ゆめゆめ「かわいい!」なんて言うお母さんはいないだろう。「ギャー、ウエー」と、絶叫が聴こえてくる。

男の子は、黒光りする強そうなのが好きだが、お母さんが抗議してきたことがある。連絡帳に「ゴキブリなど、持ち帰らせないで下さい」と書いてあった。油虫と言われるとおり、油を塗ったようにピカピカと黒光りして、ヒゲをピクピクさせ、動きも早い。忍者のように格好良い?虫かごにいれて意気揚々と「すごいヤツを捕まえたよ」と見せたのでしょう。ゴキブリの大嫌いなお母さんは(ゴキブリを好きな人はそうはいないでしょうが、)ギョットした。そして、前述のとおりお怒りになった。決してゴキブリと気付いていながら、持ち帰らせたわけではないのだが。

ゴキブリは元々、山林など暗くジメジメしたところで生息していて、それが家の中の暗いところに侵入してくるらしい。ゴキブリを家の中で見つけると、ギャーギヤー叫んで、テーブルの上に乗ったりする人もいる。それを虫カゴに入れて持ち帰ったら、激怒するのは当然である。しかし、いまだかつて、園庭でゴキブリを捕まえた子はいない。なにしろ素速っこい。緊急時に隠し持った羽根を広げ、飛び去ることもできる。その強敵を、何と素手で捕まえたという。思わず「すごい!よくやった!」と言いそうになった。

私達は、このせわしないデジタル社会の中で、電子機器に振り回され、人間らしい生活ができなくなってしまった。幼児期は自然の中で、自由に伸び伸びと生活し、体験することが人間らしい成長を保障すると思う。自由に虫取りをさせたい。この文章を書き終わった後に、「東ロボくん」開発の国立情報学研究所教授の新井さんが、次のように語っていた。「AIを使いこなせなければならない社会は、もう後戻りできないが、使いこなせる大人になるためには、幼少期にこそ、「サル」として育てる必要がある。二次元の世界には、舌さわりも手触りもない、そもそも平面的なものを立体的にみようというのは無理。体で暑さ寒さを感じる、こうすると転ぶんだとか、昆虫が動く様子をじっと見て、「動く」という統一的原理を認識するとか、そういうことを無言のまま学ぶ時期がある。その時期が十分ないと、その後の発達が難しくなるように人間はできている。」我が仲間をサルとは言い過ぎと思うが、私も園長ゴリラと言われている。原始的に生活をさせよう、ということだろう。